吉見裁判東京高等裁判所判決について(暫定版)
中央大学の吉見義明さんが日本維新の会(当時)の桜内文城衆議院議員(当時)を名誉毀損で訴えた裁判(以下、吉見裁判)において、2016年12月15日、東京高等裁判所第19民事部は吉見さんの控訴を棄却する不当な判決(以下、高裁判決)を出しました。
この裁判の発端は、2013年5月に橋下徹前大阪市長が「慰安婦制度が必要なことはだれでもわかる」と発言したことです。国内外からの批判を浴びた橋下前市長は同月、日本外国特派員協会で弁明のために講演しました。その際に、同席していた桜内氏が司会者の発言に関して、「ヒストリーブックスということで吉見さんという方の本を引用されておりましたけれども、これはすでに捏造であるということが、いろんな証拠によって明らかにされています」(以下、桜内発言)と発言しました。研究者の研究業績を捏造であると公言する行為は、研究者に対する重大な名誉毀損であるだけでなく、研究者生命を奪いかねないほど深刻なことです。そして、桜内発言は「慰安婦」制度の被害者の名誉と尊厳をも冒涜するものであり、断じて許されません。
吉見さんは、桜内発言が名誉毀損にあたるとして損害賠償請求に踏み切りました。しかし、2016年1月20日の東京地方裁判所の判決(以下、地裁判決)は、桜内発言中の「捏造」(「事実でないことを事実のように拵えること」との意味)という言葉が、「誤りである」「不適当だ」「論理の飛躍がある」といった程度の趣旨であるとの認識を示し、被告を免責しました。強引で不当な判決でしたので、吉見さんはただちに控訴しました。
今回の高裁判決は、「これはすでに捏造である」(桜内発言)の「これ」の意味がさまざまな解釈が可能であるとし、「吉見さんという方の本」を指すとは認定できないとしました。したがって、名誉毀損は成立しておらず、吉見さんの請求は認められないとしたのです。しかも、このような判断をおこなった根拠は、何ら示されていません。しかし、桜内発言は、「吉見さんという方の本」を「捏造」であると断定したものであることは疑いがありません。高裁判決は非論理的であり、極めて不当です。
吉見さんは丹念な資料調査と聞き取り等により日本軍「慰安婦」問題の実態解明に誰よりも大きく貢献し、日本国内外の歴史学界において高い評価を得てきました。地裁判決に対して、日本歴史学協会をはじめとした歴史学15団体が抗議声明を出したことはその証左です(2016年5月30日)。そして、吉見さんの研究成果は、「慰安婦」被害者に希望の光を与えてきました。高裁判決で、研究成果を捏造とする発言の問題性が認定されなかったことは歴史学界への全面的な挑戦であり、「慰安婦」被害者の名誉と尊厳をいっそう冒涜するものです。
また、吉見裁判に対しては、日本国内はもちろん世界の市民から、あたたかいご支援をいただきました。私たちは「公正な判決を求める国際市民署名」の運動を展開し、今年12月12日までに「慰安婦」被害者を含む694筆の署名を集めることができました。今回の判決は、こうした世界の市民の声をも踏みにじるものです。
私たちは、不当な判決に強く抗議するとともに、吉見さんの名誉回復と、日本軍「慰安婦」問題の真の解決に向けて、裁判闘争を続けていきます。吉見裁判をご支援いただいたみなさんにお礼申し上げるとともに、引き続きご協力をお願い申し上げます。
2016年12月16日