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「吉見裁判」とは、中央大学の吉見義明さんが、日本維新の会の桜内文城衆議院議員(当時)を名誉毀損で訴えた裁判です。

2016-01-16

吉見裁判 第9回口頭弁論・結審&報告集会 参加記

吉見裁判第9回口頭弁論・結審参加記

吉見裁判は2015105日(月)、東京地裁でのすべての手続きを終え、結審を迎えました。今回は被告側の大々的な傍聴呼びかけがなかったのか、抽選は行われず、希望するすべての人が法廷に入ることができました。それでも大法廷の傍聴席は大方埋まっていました。

●大森典子さんの弁論
まず原告弁護団の大森典子さんが、最終準備書面の内容に沿って原告代理人として弁論を行いました。
はじめに被告桜内文城氏の「ヒストリーブックスということで吉見さんという方の本を引用されておりましたけれども、これはすでに捏造であるということが、いろんな証拠によって明らかにされています」との発言が吉見さんに対する名誉毀損に当たることを明確に説明しました。上記発言の「これは」が、一般の聴取者の普通の注意を基準にしたら、被告が主張してきたように「sex slavery」を指すとは考えられないことを説明し、この裁判の審理の対象が「吉見さんという方の本はねつ造である」という主旨の被告の発言が名誉毀損に当たるか否かという点にあることを強調しました。その上で、「捏造」という歴史学者にとって学者生命にもかかわるような発言が、現職の国会議員によって、しかも多数のメディアが集まる記者会見の場でなされ、その様子がインターネット上で現在も世界に発信され続けている現状の、名誉侵害の深刻さを訴えました。さらに被告が、裁判が始まってからも「『慰安婦=日本軍の性奴隷』という虚構の事実を捏造し、自らの政治主張を世界中にまき散らしている」などの発言を繰り返してきた、その悪質さも指摘しました。
次に被告の「仮に被告の本件発言が被告の意図はどうあれ客観的には原告の著書に言及したものと解されたとしても、原告の著書の中で慰安婦は性奴隷であると断定している部分は捏造である」という主張に対しても、これまでの弁論の過程でしっかりと反論し、被告の国際法上の奴隷概念や「慰安婦」に関する事実認定が誤りであることを実証してきたことを述べ、「捏造」(つまり「事実でない事を事実のように拵えていうこと」)という言葉が吉見さんの本に関して当てはまらないことを論じました。
最後に、今回の弁論に際して提出された被告の準備書面の結論で「本件は学説間の対立の問題に過ぎない」と述べられている点について、この裁判を名誉毀損の事件ではないように演出しようとする被告の苦し紛れの論法としか考えられないと批判し、この裁判の争点が、被告の発言が名誉毀損行為かどうかにあることを確認して、弁論を終えました。

●吉見さんの最終陳述
 続いて吉見さんが原告の最終陳述を行いました。吉見さんもこの裁判の争点が、被告が原告の本は捏造であると述べたことにあることを訴えました。その上で、被告が①被告発言の「これ」は「sex slavery」を指す、②「慰安婦は性奴隷である」という命題のことであると主張を変え、さらには③「原告の著書の中で慰安婦は性奴隷であると断定している部分は捏造である」と言うなど、被告が苦し紛れの言い逃れを繰り返してきたこと、そして、原告側がそれらの被告の主張の破たんを、裁判を通じて証明してきたことを強調しました。吉見さんは、被告が20154月におこなわれた本人尋問の中で、原告代理人から「原告が事実でないと知りながら虚偽の事実を書いたと考えているのか」と質問されて、「そうは考えていない」と答えたことにも言及しました。
次に最終書面の中で被告が、「慰安婦」は性奴隷であると何らかの形で裁判所に言わせようとする政治的目的があるのではないか、本件は学説間の対立の問題に過ぎない、という主張を展開したことに対して、吉見さんは次のように明確に反論しました。前者については被告の邪推でしかないこと、原告側が一貫して裁判の争点は被告の発言が名誉毀損に当たるかどうかという点にあると主張してきたことを述べました。後者については、吉見さんの本を読んだことのない被告が「これはすでに捏造であるということがいろんな証拠によって明らかとされております」と発言したことが「学説間の対立」にはなり得ないという、とても当たり前のことを冷静に指摘しました。
最後に、吉見さんは被告が根拠なく「捏造」との発言を繰り返しながら、言い逃れのために主張を変遷させることによって、吉見さんへの攻撃のみならず、勤務先にまで攻撃が向けられている現状を訴えました。

●被告の最終陳述
次に被告桜内氏の最終陳述がありました。裁判のきっかけとなった自分の発言について、「慰安婦をsex slaveという人がいたらそれに反論する」という「任務」を所属政党から負って出席した記者会見だったこと、吉見さんの本を読んだこともなかったこと、「原告のことなど眼中になかった」ことを語りました。そのうえで、さも自分の功績であるかのように、被告の発言ののち、記者会見場で「慰安婦」を性奴隷と発言する人がいなかったことや、会場に吉見さんのことを気にするそぶりも見られなかったと述べました。そのあとは、「抗議」と称して、原告準備書面の「奴隷条件に関する秦郁彦氏の見解は無知と言うほかはない」という記述への批判に終始しました。名誉毀損で訴えを起こしたのに、他の研究者を「無知」とののしる資格はない、「慰安婦=性奴隷説」によって日本国民の名誉と尊厳を傷つけ、「秦郁彦先生」の名誉を傷つけたとして、謝罪を求めるという内容でした(報告集会の報告参照)。あきれるほどの無反省ぶりと非論理に傍聴席からも苦笑が漏れました。

●被告代理人の最終弁論
最後は被告代理人でした。こちらは、「原告は名誉毀損でも何でもないほんの一言をさも大事件のように扱って、裁判所に慰安婦は性奴隷といわせるという、自分の政治的目的のために利用している」と印象付けをしようと様々な意見を述べるのですが、そのどれもがすでに原告側の弁論で反論されていたり、あるいは証拠もなにもないネット上の単なる噂話を事実かのように語るなど、裁判での弁護士による弁論とは思えないような内容でした。
被告の発言の短さに対して、原告が出してきた準備書面や証書が膨大な量であることを揶揄を込めて指摘したり、(実際は被告が次から次へと主張を変えてきたからこそ、それに合わせて反論を繰り広げざるを得なかったにも関わらず、そのあたりの事実関係を無視して)原告側が次々に主張を変えてきたと指摘してみたり、「慰安婦」が性奴隷でないことが一般的な認識であるにもかかわらず吉見さんなど一部の人間がそれを批判しているのだから、原告一人への名誉毀損ではなく、一般命題への批判に過ぎない、と言ってみたり…原告側の弁論や主張で丁寧に説明し反論してきたことなど一切無視した弁論には驚きを禁じえませんでした。

9回報告集会参加記

閉廷後、場所を衆議院第二議員会館第一会議室へ移動して報告集会を開催しました。
まずは大森さんから今日の結審の内容を振りかえっての説明がありました。結審の法廷の場で判決期日が指定されたことについては、「こういった大きな裁判では『判決期日は追って指定する』と言ってその場で決まらないことが多いので、裁判官3人の中ではすでに判決の大筋が合意されているのでは」と述べました。また、桜内氏は負けたとしても控訴をするだろうから、判決の勝敗にかかわらず、次の裁判を見据えて闘う必要があるとの決意も語ってくれました。
続けて弁護団の一人ひとりから、最終準備書面でのそれぞれの執筆担当箇所についてコメントをいただきました。最終準備書面は『日本軍『慰安婦』制度はなぜ性奴隷制度と言えるのか』PARTⅢに収録されています。1700円(送料・振込手数料別)でお分けしていますので、ぜひお求めください。
はじめに、川上詩朗さんから最終準備書面の大枠の説明と、川上さんが担当した国際法に関する部分の紹介がありました。ここは阿部浩己さんの意見書を基に作成されており、第7回の口頭弁論での阿部さんへの証人尋問同様、国際法上の奴隷概念に照らして「慰安婦」制度が性奴隷制に当たることを的確に指摘しています。
穂積剛さんからは、桜内氏が意見陳述で、原告側が秦郁彦氏について準備書面11の中で「無知」と書いたことに強く抗議し謝罪を求めたことについての説明がありました。秦氏に対する原告からの反対尋問で、「慰安婦」が性奴隷なのかどうかは国際法に照らして判断すると答えた秦氏に、奴隷条約の解釈について質問したところ、専門家として呼ばれたにもかかわらず「それは知らん」と答えたことを「無知」と書いたのであり、不当でも何でもないことを強調しました。
また「裁判の弁論を聞いていて、向こうを支援する人たちはおかしいと思わないのだろうか」というあまりにも当然の疑問とともに、「世の中を右に引き倒すためだったら、事実も論理もどうでもいい。自分の都合のいい結論があって、そこに引き寄せようとしているのだろう。しかもそれが一般の人によってではなく、議員という立場の人間が行ったことがとても問題だ」と指摘しました。
 松岡肇さんは、「この裁判は間違いなく勝訴すると思っているが、最後の最後まで分からないという経験を何度もしてきた」と、長く中国人の強制連行・強制労働の裁判を担当してきた経験から語り、被告弁護団に対しても被告を説得したり訂正したりしないのだろうかと考えてしまうほどで、裁判官も同じように思っているだろうとは思うが、判決が出るまではどこかで用心をしておくことが必要だと、注意を促しました。
武藤行輝さんは、吉見さんの陳述書などを基に書かれた日本軍「慰安婦」制度の実態の部分を担当しました。その中で武藤さんが特に伝えたかった点として、「はじめに」に書いた内容を紹介しました。一つでも例外があれば「慰安婦」制度は性奴隷制度とはいえないという前提に立つ被告側に対する反論を込めて、家永教科書裁判で意見書を提出した永原慶二さんを引用して、歴史的事実はすべての例や事象から総合的に判断することが必要だということを提示して、この点を理解していない被告側が「歴史学の基本的作法を全く理解できていない」という点をはっきりと主張しました。
緒方蘭さんは小野沢あかねさんの意見書(こちらも『日本軍『慰安婦』制度はなぜ性奴隷制度と言えるのか』PARTⅢに収録)を基にまとめられた公娼制度との関係の部分を担当しました。「この裁判を担当して、否定的な意見に対する説得的な反論の方法を整理することができたが、歴史の事実はなかなか知る機会がない」と、司法修習生の集まりで「慰安婦」問題の学習会の講師を担当した時に「慰安婦ってホントにいたんですか」という質問が出たこと語ってくれました。
吉見さんからの結審を迎えての感想の後、質疑応答に入りました。
一つ目の質問は、被告側の「この問題を政治問題化させるために、裁判所に『慰安婦』は性奴隷だと言わせるためにこの裁判を使っている」という陳述についてでした。弁護団からは、被告側は政治運動だと言って、裁判所を恫喝した気になっているのかわからないが、これは論理的な反論でも何でもないので、まともに相手をするつもりはない、裁判所は裁判に提出された証拠に基づいて判例に従って裁くだけなので、このような意見に裁判所が影響を受けることないと考えている、との応答でした。
二つ目も被告側の裁判の論旨とは全く関係のない発言についての憂慮でした。以前の弁論で被告側が「あなた方は慰安婦に関する日本政府の公式見解を知っていますか」と質問したことについて、日本政府の見解を否定する判決を出すのかという恫喝をしていることについてどう思うかというものでした。弁護団からは、判例から考えれば負けるはずのない裁判でも、判決が出ないことにはやはりわからない、しかし、正義は私たちにあると確信しているし、そうではない判決が出たとしてもそれを押し返していく努力を続ける。裁判官が臆してしまうような裁判で大事なのは、多くの方が傍聴に来て、しっかり見ている、この裁判に注目しているということを示すことだ、との意見がありました。

120日の判決へも引き続き、みなさまの傍聴をよろしくお願いします。
                                (一事務局員)